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神戸地方裁判所 昭和27年(行)10号 判決

原告 佐々木良郎

被告 姫路市広畑地区農業委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十六年十一月二日別紙目録記載の各農地についてなした買収計画は之を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

別紙目録記載の農地(以下本件農地と称する)はもと原告の先代訴外佐々木三郎の所有に属していたが後原告の所有に帰した。ところで被告は昭和二十六年十一月二日右農地につき、同地が自作農創設特別措置法(以下自作法と略称する)第三条第一項第一号所定の小作地に当ると認定し、同条に基き之が買収計画を決定した。しかしながら右買収計画は次の理由により違法である。

第一、本件農地を耕作しているのは訴外岸野豊次であるが、同人は前記三郎から右農地の管理と土地区画整理に関する事務処理とを委任されただけで、別に之につき自作法第二条第二項所定の権利を有しているものではない。たゞ食糧事情窮迫のため、所謂休閑地の利用を図る意味で原告側において右豊次の耕作を容認していたに過ぎないのである。又同人は酒商を本業とし、傍ら富士製鉄株式会社広畑製鉄所の人夫頭を勤めているところから耕作の業務を営む者とは云えず、本件農地を耕作業務の目的に供しているものとも云えない。以上の理由により本件農地は自作法第二条で定められた小作地としての要件を備えていないのであるから、之を小作地として買収することは違法である。

第二、本件農地は都市計画法第十二条第一項の規定による土地区画整理を施行する土地であつて、現に整理は進行し、それぞれ仮換地の通知を受けているのである。従つて之を買収することは自作法第五条第四号に違反する。

第三、本件農地は前記三郎が昭和十五年頃、当時医を業としていた原告のため、将来外科医院建設用敷地に充てる目的で買入れたものであるが、その後原告の応召従軍や、建築界の事情、資金関係等で今日迄素志を遂げることが出来なかつたのである。ところで原告が現在居住して外科医院を開業している茨木市は人口三万で他に開業医が多く、附近に市立病院もある関係から、医院の維持継続が困難な上、法令改正の結果、外科医院はベツド数二十以上を備えなければ入院取扱が出来なくなつたりしたため、原告としては本件地上に外科医院を建設することにより行詰りを打開する以外に方法がなく、現にそのような計画を樹てているのである。ひるがえつて本件農地の有する客観的条件について観るのに、該土地は前記製鉄所と山陽電鉄との中間に位し、今や市街地として発展途上にあるから外科医院開業の地としてまことに好適なのである。さればこそ前記のように本件土地附近一帯の地区に区画整理が実施され仮換地の指定まで行われたのである。以上主観的客観的諸事情を総合すれば本件農地が自作法第五条第五号にいう、近く土地使用目的を変更することを相当とする農地に該ることは極めて明白である。故に被告としては之に対し同条同号所定の指定をなすべき義務があるにもかかわらず、それをしないで(原告は使用目的変更指定の申請をしたが、被告は之に対し許否の決定をしなかつた)本件買収計画を決定した。右は個人の権利を無視した不当な処分であつて自作法第五条第五号に違反する。

よつて原告は本件買収計画に関し、昭和二十七年二月五日異議を申立てたが同月十一日却下され、同月二十一日訴願の申立をしたが同年四月十二日棄却されたので、本訴において右買収計画の取消を求めるものであると陳べ、被告主張事実中本件農地につき自作法第五条第四号所定の知事の指定のないことのみを認めてその余を否認した(立証省略)。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、

原告主張事実中、本件農地がもと原告の先代佐々木三郎の所有に属していたところ、後に原告の所有に帰したこと、被告が右農地につき原告主張のような買収計画を決定したこと、及び原告が之に対しその主張するような訴願の手続を経たことは之を認める。しかしながら、右買収計画は左の理由により違法ではない。

原告主張第一の点について。

原告主張事実中本件農地の耕作者が訴外岸野豊次であることのみを認めその余を否認する。右豊次は原告の父三郎から本件農地の耕作を許されたのであるが、その当時同人は既に他に六畝歩の農地を小作していたし、現在では本件農地以外に六反歩を耕作していること、本件農地に関する公租公課はすべて豊次が負担支払つていること、及び本件農地とその周辺が昔から農地ばかりであることから考えると豊次の本件農地使用は都市近郊における所謂休閑地利用とは全く趣を異にし、正に自作法第二条第二項所定の貸借関係に基くものといわねばならない。又豊次が耕作の業務を営むものであり、本件農地がその業務の目的に供されていることも前記諸事情により明かであるから、之を小作地として買収することは違法でない。

同第二の点について。

原告の事実上の主張はすべて之を認める。しかしながら、自作法第五条第四号の法意は土地区画整理区域内の土地はすべて之を買収しないというのではなく、右の内都道府県知事の指定する区域内にあるもののみを買収しないというのである。而して本件農地については知事の指定がないのであるから、之を買収しても前記法条に違反しない。

同第三の点について。

原告主張事実中、使用目的変更の申請があり之に対し許否の決定をしなかつたことだけを認めその余を否認する。佐々木三郎は本件農地の値上りを見越し、投機的な利益を得る目的で之を買取つたのである。ところで原告は現に茨木市で開業していて、業務上本件農地を必要とする事情はないのであるから、真に同地上に外科医院を建築する意思を持つているとは到底考えられない。加之、本件農地の地理的条件は住宅地帯を遠く離れている関係上、同地で外科医院を開いてもその維持経営は困難と思われる。このことは使用目的変更を相当とする客観的条件が備つていないことになるのである。このような土地に対し、自作法第五条第五号所定の指定をなすべからざることはいうまでもない。なおかりに近く使用目的を変更することを相当とする農地であるとしても、土地区画整理施行地域については之を買収から除外するか否かは自作法第五条第四号により知事の専権に属しているのであるから同号による知事の指定がないのに、被告において同条第五号による指定をすることは許されない。故に右の指定をしないでした本件農地買収計画は適法である(立証省略)。

三、理  由

本件農地はもと原告の先代佐々木三郎の所有に属していたが、後原告の所有に帰したこと、被告が昭和二十六年十一月二日右農地につき自作法第三条第一項第一号により之が買収計画を決定したこと、及び原告が之に対しその主張するような訴願の手続を経たことは当事者間に争がない。そこで右買収計画につき違法な点があるかどうかを原告主張の論点につき順次判断する。

第一、本件農地は小作地であるかどうかの判断。

(一)  訴外岸野豊次が本件農地を耕作していることは当事者間に争がない。そこで右豊次の耕作が如何なる権利に基くものであるかにつき考えるに、成立に争のない甲第一号証(乙第二号証と同一内容)証人岸野豊次及び同佐々木嘉寿栄の各証言によれば、原告の先代三郎は昭和十五年頃本件農地を買取つた(但し登記簿上は訴外平野岩雄の名義とした)のであるが、同年十二月二十四日頃知人である右豊次との間に「豊次は三郎のため本件農地につき無報酬で区画整理に関する事務を処理し、且つ諸税諸雑費等一切を支弁する、三郎は豊次が本件農地を無料で耕作使用することを許すが、必要な場合にはいつでも之が返還を求め得る」旨の契約を締結したこと、及び豊次は爾来右契約上の義務を履行し且つ本件農地を継続して耕作したことを認めるに足る(証人嘉寿栄の証言中、最初は耕作を許さなかつたが後食糧事情が窮迫したため、豊次の懇請を容れ耕作を許すようになつたとの部分は信用出来ない)。ところで右契約の解釈であるが三郎としては本件農地を豊次に委ねた目的が、之を同人に管理させるにあつたことは、小作料を徴さず、いつでもその返還を求め得るとしたことにより明白であるけれども、他方豊次は別に管理に対する報酬を受けないのみか諸税諸費用もすべて之を負担することになつており、又土地返還に際しては収穫期迄明渡を猶予する等の特別の取極めがなされていること前記甲第一号証に徴し明かなところから観ると、豊次に耕作を許すことの意味は食糧窮迫の折から土地を遊ばせておくのは惜しいという理由で管理人に耕作を許すところの所謂休閑地利用のような附随的な軽いものではなく、本件の場合耕作者は耕作関係以上の管理上の責任は負うがそれのみが主たる目的ではなく、その責任を負う代り税金等の公課を負担するほかは賃料の支払義務を負わないという特約で耕作することが許された関係で管理と耕作とが対等に混合された一種の有償契約に基く耕作関係であると解すべきである。かゝる契約上の耕作関係も又自作法にいう小作地と解するを相当とするから、これと相容れない原告の主張は失当である。

(二)  原告は右豊次は他に本業があつて、耕作のみを業としているものではないから、耕作の業務を営むものとはいえず、又本件農地を耕作業務の目的に供しているものといえない。従つて本件農地は小作地でないと主張する。しかし自作法第二条に規定した「耕作の業務」とは単に土地に対し継続的に肥培管理を施し作物を栽培することであつて、本業としてそうすることを要求しているのではない。而して豊次が本件農地を昭和十五年以来継続して耕作していることは前示認定の通りであるから同人は他に本業を有すると否とを問わず耕作の業務を営むものであり本件農地はその業務の目的に供している農地である。

よつて本件農地が小作地でないとする原告の主張はすべて理由がない。

第二、本件農地の買収が自作法第五条第四号に違反するかどうかの判断。

本件農地が都市計画法第十二条第一項の規定する土地区画整理を施行する土地であり、現に整理が進行しつつあることは当事者間に争がない。しかしながら自作法第五条第四号によつて買収から除外されるべき農地は土地区画整理を施行する土地の内知事が都市計画上の要請と自作農創設上の妥当性との調和を何処に求めるかの困難な行政的判断を経て指定する区域内にあるものに限ることは右法条の立法目的からも、又文理解釈からも疑を容れない。従つてかかる指定のない場合に裁判所が自ら指定すべきか否かを判断して買収計画の適法か否かを判断するのは徒らに行政的判断に介入するものであつて許さるべきでないと解すべきところ、本件農地につき右の知事の指定のないことは当事者間に争がないから、之が買収計画は前記法条に違反しないこと明白である。

第三、本件農地の買収が自作法第五条第五号に違反するかどうかの判断。

自作法第五条第五号は近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地で市町村農業委員会が都道府県農業委員会の承認を得て指定した又は同委員会自らが指定したものについては、第三条の規定による買収をしない旨を規定しているが、近く使用目的を変更することを相当とする農地とは現状は農地であるが近く農地以外の目的に使用するのがその地況等の客観的条件から見て利用価値を増進する所以であると判断される場合でもあると解すべきであるが、かゝる判断は前項の場合と異り必ずしも行政庁がなすべき特別な行政的考慮を必要とせず客観的地況から裁判所のよくなしうるところであるが、たゞその判断は必ずしも容易でなく、各個の土地につきその有する種々雑多な条件を考慮した上で定まることであるから、その判断を市町村農地委員会の判断に委すときは寛厳において不統一を来すおそれがあるので都道府県農業委員会の指定又はその承認を必要とする旨の規定になつたものと解すべきであつて、この指定又は承認を以つて同条第四号の知事の指定と同様行政上特有の判断を必要とするとの考慮から定められたと解すべきではない。(昭和二七、七、一一、大阪高裁判決参照)よつて本件農地が果して近くその使用目的を変更するを相当とするや否やにつき判断する。

検証の結果によると、本件各農地はいずれも相当広い耕作地帯の中に位し、周囲は概ね水田であるが、その北に山陽電鉄路線南に富士製鉄株式会社広畑工場があり(この両者の距離は約八百米)、更に別紙目録(一)の農地(以下甲地と称する)の東方約五十米、同目録(二)の農地(以下乙地と称する)の西方約二百五十米を南北に大きな道路が走り、その両側に商社の建物が点在し、建設用地として地上げした土地も二三見られる外乙地のすぐ傍には二戸の民家、甲地の真北約三百米の地点には山陽電鉄広畑駅が在ることを認め得るから、本件農地附近一帯は純然たる耕作地帯とは云えない。しかしその近傍の建物としては前記のものしかなく、一般住宅地帯との距離は甲地で七百米、乙地で二百米であることも亦右検証の結果明かである。以上の事情を総合すると、本件農地の近傍が次第に発展し市街地化する可能性がないとはいえないが、近い将来にそうなると断定することは到底出来ない。而してこの認定を覆すような証拠は存在しないから、本件農地については近く使用目的を変更することを相当とする客観的情況がないものと認める他はない。果してそうだとすれば、本件農地につき自作法第五条第五号の指定をするに当らないものといえるので右の指定をしないでした本件農地買収計画は違法ではない。

以上原告主張のいづれの理由によつても本件農地買収計画は違法ではないから、之が取消を求める原告の本訴請求は失当として之を棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石井末一 大野千里 入江教夫)

(目録省略)

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